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「省エネ」投資の評価軸はそれで充分?―― 建物の価値を広げる NEBs という考え方


建物は、私たちの社会や経済活動を支える基盤であると同時に、多くのエネルギーを消費しています。
日本政府がめざす2050年のカーボンニュートラル実現に向けて、建築物における消費エネルギーの削減は喫緊の課題となっており、省エネ建築の普及が強く求められています。
省エネ建築とは、建物の断熱性能を高めたり、高効率な空調・照明設備を採用したりすることで、エネルギー消費をできるだけ抑えた建物のことを指します。例えば、夏は涼しく冬は暖かい室内環境を保ちながら、冷暖房に使うエネルギーを減らす、といった取り組みがその代表例です。
こうした動きを後押しする制度や認証も整備されてきました。代表的なものに、建物の省エネ性能を星の数などで表示する「BELS(建築物省エネルギー性能表示制度)」や、エネルギー消費量を実質ゼロに近づけることをめざす「ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)」があります。また、近年では、新築だけでなく既存建物の改修においても、省エネ性能が重視されるようになっています。
こうした取り組みは、カーボンニュートラルの実現に向けて、欠かせないものとなっています。
一方で、「省エネ建築=光熱費削減や環境配慮」といったイメージが先行し、それが自分たちの働き方や日常に、どんな変化をもたらすのかまで考える機会は、意外と少ないのではないでしょうか。
確かに、光熱費が下がることやCO₂排出量が減ることは重要です。
しかし、省エネ建築が生み出している価値は、それだけではありません。
働く人の生産性や健康、企業イメージの向上、災害への強さなど、数字に表れにくいメリットが、実は数多く存在しています。
こうした「見えにくい価値」に光を当てた考え方が、今回ご紹介する NEBs(Non-Energy Benefits/ネブズ)です。


―建物の省エネ化が進まない“本当の理由”

建築分野におけるエネルギー消費量は日本全体のエネルギー消費の約3割を占めており、カーボンニュートラルの実現に向けて、建築物の省エネ化は喫緊の課題となっています。
近年、新築の建物ではエネルギー消費を実質ゼロに近づけるZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)水準の省エネ性能を確保することが求められるようになりましたが、既存建物(ストック)の省エネ化は進んでおらず、省エネ建築の普及は依然として重要なテーマです。
一方で、現場ではこんな声も少なくありません。
「省エネ化は初期投資が大きく、回収できるかわからない」
「投資の効果がわかりにくく、決断しにくい」
その背景にあるのは、効果の評価軸が「CO₂削減量」や「エネルギー削減量」に偏っていることでした。


―実は、建物はもっと多くの価値を生んでいる

環境性能に優れた建物では、こんな変化が起こることがあります。
・室温や空気環境が改善し、集中力や知的生産性が向上するほか、従業員の体調不良が減少する
・働きやすいオフィスが、採用力や定着率の向上につながる
・災害時でも業務を継続しやすく、レジリエンスが高まる

どれも企業にとって重要ですが、これまでは「なんとなく良さそう」で終わっていました。



―見えない価値を“見える化”するーNEBsの誕生

そこで、株式会社NTTファシリティーズ(以下、NTTファシリティーズ)と合同会社デロイト トーマツは共同で、省エネ建築がもたらすエネルギー削減“以外の”効果を評価する指標を開発しました。
それがNEBs(Non-Energy Benefits/ネブズ)です。
国内外100件以上の調査・研究をもとに、省エネ建築をはじめ建物がもたらす効果を整理し、5つのグループ・12の指標として体系化しました。
また、独自のロジックによりこれらの効果を金銭価値として“見える化”しました。
これにより、「働きやすくなった」「生産性が上がった」といった効果も、投資判断に使える“数字”として扱えるようになったのです。

「NEBs(Non-Energy Benefits)とは」


―例えば「知的生産性」はどう評価する?

NEBsの一例として、「知的生産性」を見てみましょう。


例えば省エネ化を目的に建物の断熱性能を向上させると、室内の温熱環境が改善されます。
すると、暑さ・寒さによるストレスが減り、自然と集中しやすくなります。
それにより業務が効率化し、労働時間が短縮されるとともに、
より創造的な業務に時間を割くことができるようになると考えることもできます。

これはほんの一例にすぎませんが、NEBsでは、
・建物や設備に関するデータ
・従業員アンケートやヒアリング
・利用実態の確認
などを組み合わせることで、実態に即した生産性向上効果を定量化できる仕組みになっています。


―投資回収は、ここまで変わる

NEBsを考慮すると、投資への評価は大きく変わります。
例えば、延床面積1,200㎡・従業員30人程度のオフィスで試算した場合、
光熱費削減効果だけでの評価:投資回収 約20年
光熱費削減効果とNEBsによる評価:投資回収 約4年
このように、投資回収に要する期間が大幅に短縮されるという計算結果も得られています。

次に、実際の建物での算定事例をご紹介します。
ダイダン株式会社のZEBオフィス3棟(新築)の試算結果は
光熱費削減効果(EB):約250万円/年
NEBs:約1,020万円/年
と試算され、投資回収年数は光熱費削減のみで評価した場合の約5分の1となりました。


―実務で使える「NEBsポータルサイト」

こうした考え方を広く共有し、建物の省エネ化に関する検討や意思決定を支援することで
社会全体での省エネ建築の普及を促進するため、
NTTファシリティーズでは2026年3月31日に「NEBsポータル」を公開しました。
URL:https://www.ntt-f.co.jp/nebs/nebs-portal/

NEBsポータルサイト

ポータルサイトでは、以下のようなコンテンツを利用できます。
・NEBsの考え方や背景の解説
・誰でも使えるNEBs算定機能
・実際の活用事例の紹介
・コラム・ニュースなどの最新情報

■NEBs解説
NEBsの定義や背景、12項目の全体像、基本的なロジックや期待される活用シーンを、解説動画も用いながらわかりやすく紹介しています。

■2種類のNEBs算定機能
建物に関する情報を入力するだけでNEBsを算定できる機能で、建物の省エネ化に関する検討や、投資判断・関係者間での理解促進に活用できます。算定機能は簡易版と標準版の2種類があり、用途や検討段階に応じた使い分けが可能です。
・簡易版:会員登録不要。建物種別・規模、ZEB性能や構造、オフィス条件などの最小限の情報を入力するだけで、対象建物におけるNEBsの大まかな効果額を試算可能。初期検討や社内説明に最適。
・標準版:簡易版の入力項目のほか、建物の空間・内装や室内の音・光・空気環境などに関する情報を入力することで、より実態に即した効果額が算定可能。より詳細な比較・意思決定に活用。

■活用事例紹介
オフィス、公共施設、教育施設、生産施設など、多様な用途の新築・改修案件を順次更新予定。
背景や課題、算定プロセス、NEBsの活用方法までをわかりやすく解説しています。

■コラム・ニュース
NEBsに関連するコラムやニュースなど、最新情報を発信しています。
今後は有識者やNEBs利用者へのインタビュー記事なども掲載する予定です。


―建物の価値を、もっと正しく評価するために

建物は、ただエネルギーを消費するだけの“器”ではありません。
人が働き、集い、価値を生み続ける“基盤”です。
NEBsは、その価値を正しく評価し、よりよい意思決定につなげるための新しい「物差し」と言えるでしょう。
これからの省エネは、「どれだけ削減したか」ではなく、
「どんな価値を生んだか」で語られる時代に入っています。

(参考)
https://www.ntt-f.co.jp/news/2024/20241202.html
https://www.ntt-f.co.jp/news/2026/20260331-01.html
※「NEBs」は株式会社NTTファシリティーズの登録商標です